債券通
2019年8月14日、 中国人民銀行 が香港市場で債券通(ボンドコネクト)を活用、300億人民元の債券(短期証券)を発行し、無事に全額を調達しました。昨年11月から開始した香港市場での調達累計総額は1,200億人民元に達し、中国人民銀行は香港市場を通じた資金調達手段を確立しつつあります。
そこで本日は『8月14日、債券入札振り返り』『各国債券利回りとの比較』『香港市場からの資金調達が中国国内市場や為替人民元へ与える影響』について考察します。

8月14日、入札振り返り(債券通)

まずは以下の実際の入札データをご覧ください。二つの入札を通じて総額300億人民元を調達してます。

<入札1>
期間:3ヶ月
表面利回り:2.90%
発行金額:200億人民元
応募金額:480億人民元
入札倍率:2.40倍

<入札2>
期間:1年
表面利回り:2.95%
発行金額:100億人民元
応募金額:306億人民元
入札倍率:3.06倍

入札1・入札2共に入札倍率が高い、つまり投資家からの人気が高いことがわかります。特に期間1年の入札(入札2)倍率が3.06%と高く、投資家が、1年2.95%の表面利回りで、中国人民銀行のリスクを受け入れることを示しています。

各国債券利回りとの比較(債券通)

各国債券利回りと比較してみるといかに中国人民銀行の債券が魅力的かよく分かります。以下に比較的年限の近い各国2年債の利回りを示し、比較します。
<各国2年債の利回りとMoody’s 格付け 2019/08/16 14:15 CST>
米国:1.52% 格付け:Baa3(投資適格)
ドイツ:▲0.90% 格付け:Aaa(最高評価)
日本:▲0.28% 格付け:A1(投資適格)
イタリア:0.01% 格付け:Baa3(投資適格)
ギリシャ:1.34% 格付け:B1(投資不適格)
中国:2.95%(1年債) 格付け:A1(投資適格)
世界各国の債券利回りは、ため息が出るほど低いことがわかります。各国が景気刺激のために金利を引き下げて、量的緩和のために債券買い入れを行なった結果が上記です。もはやどこの国の債券に投資をしても大した利回りが得られない世の中です。そしてギリシャの2年債ですら利回り1.34%。ですから中国人民銀行、1年、2.95%、オフショアの人気が高いのは当然であると考えます。

香港市場からの資金調達(債券通)が中国国内市場や為替人民元へ与える影響

昨年11月から、中国人民銀行は香港市場を通じて累計1,200億人民元を調達しました。これは米ドルで約170億ドルに相当します。では果してこの金額は大きいのでしょうか?それとも小さいのでしょうか? 統計を考察する時に最も重要なことは数字の規模感を掴むことです。以下に例をあげて考察します。
2018年中国の国内債券発行総額:6兆2285億ドル
国内の債券発行総額と比べると香港市場からの調達総額は明らかに規模感が小さいことが分かります。ですから香港市場からの調達が、例えば国内の融資環境に変化を与えるかと言うと、そのような効果は期待出来ません。
ただし国内での債券発行はあくまで国内からお金を集めるだけで、例えば為替レートへの影響はありません。しかし今回は香港市場(オフショア)での募集、つまり国外からの資金調達になるので国際収支、ひいては為替レートに影響します。そこで前回の振り返りになりますが、国外からの資金調達、つまり国際収支をもう一度振り返ります。
2018年 中国 国際収支 分析
2018年中国の国際収支:1,187億ドル
と考えると、香港市場から調達した170億ドルは決して少なくない金額であると分かります。
そして香港市場からの調達はまだまだ始まったばかり。加えて香港市場を通じた調達は現在まで全て期間1年以内の短期債に限定しており、従って今後、追加の短期債発行や、中長期債の新規発行が想定されます。ですから香港市場を通じての調達はさらに一段と規模の大きなものとなっていくと予想します。
為替への影響については、上図をご覧いただくと分かりやすいのですが、170億ドルは決して小さくはないものの大きくもないと言うのが事実。ですから現在のところ為替相場への影響は限定的でしょう。調達総額が500-1,000億ドルに達してくると、一つの大きな為替変動要因として考慮する必要がありそうです。

債券通にて300億人民元を追加調達(まとめ)

それでは以下に本日のポイントを纏めます。
・中国人民銀行が香港市場を通じて発行する債券は投資家から人気がある
・なぜなら中国本土ほど制限がなく、世界中の債券より利回りが高いから
・今後短期債の追加発行・中長期債新規発行が想定される
・ただし中国国内市場(例えば融資環境)への影響は軽微
・為替への影響は現状小さいが、調達金額が500-1,000億ドルに達してくると影響が大きくなる
いかがだったでしょうか?中国人民銀行の債券業務を分析することで、『投資家の動向』や『為替への影響』について理解を深めることが出来たと思います。また中国にとって香港の金融ハブ機能は極めて重要であり、特に人民元国際化のためには欠かせないピースであることを改めて実感出来たのではないでしょうか。
弊社では今後も人民元を中心に、中国金融・経済情報を発信してまいりますので、引き続き当ブログをフォローして頂ければ幸いです。

戸田裕大

<参考文献・WebPage>
香港金融管理局入札データ:https://www.hkma.gov.hk/eng/key-information/press-releases/2019/20190814-4.shtml
Investing.com 各国債券利回り:https://investing.com
中国人民銀行債券発行データ:http://www.pbc.gov.cn/jinrongshichangsi/147160/147171/147173/index.html
ムーディーズ格付けデータ:https://www.moodys.com/pages/default_ja.aspx