「機関投資家」と聞くと皆さんは何をイメージしますか?株式投資をしたことがある人でしたら、自分の投資している銘柄に「機関投資家」が空売りを仕掛けて、痛い目にあったという人も多いかと思います。ただ実際のところ「機関投資家」とは身近に存在していて、彼らの運用手法も目的によって多種多様です。そんな彼らの投資スタイルをご紹介していきます。

5つの代表的な機関投資家

本日は代表的な機関投資家を5つご紹介します。

 

年金基金

年金基金とは国民から預かっている国民年金、企業の場合は社員から預かっている企業年金を運用する機関です。運用方針としては、我々の老後資金になる年金を運用しているため、ハイリスクな投資はできず、運用スタイルとしては長期の分散投資になります。我々の国民年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、日本で最も有名な年金基金ですが、200兆円以上の資産残高をもっており、世界でも有数の規模を誇る運用機関です。ポートフォリオの内訳としては、リスク分散を行うために資産残高の半分を日本の株式と債券へ、残りの半分を海外の株式と債券へ投資しています。また、さらなる分散を目的とし、ここ数年では不動産、プライベートエクイティなどのプライベート資産への投資割合を少しずつ増やしています。こうすることによって、株式や債券のマーケットが大きく荒れた時に傷口を浅くすることが可能になります。

年金基金はGPIFの他にもPFA(企業年金連合会)やKKR(国家公務員共済組合連合会)、また最近だと岸田総理が注力している10兆円規模の大学ファンドの運用が2022年より開始されています。

 

保険会社

生命保険会社は皆さんがご存じのように保険加入者からお金を預かって、万が一の際には被保険者へ補償をします。しかし、ただお金を預かっているだけではなく、生命保険会社もそのお金を運用している「機関投資家」です。運用方針としては、お客様と事前に約束した配当の支払いなどもあるため、厳格なリスク管理を実施しながら資産の運用をしています。この運用手法をALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)と呼び、資産(=アセット「A」)と負債(=ライアビリティ「L」)を総合的に把握し管理(マネジメント「M」)する手法のことを指します。また、生命保険会社は一般勘定と特別勘定という2つの勘定に分けて資産を運用しております。一定の給付が保証されるタイプの保険商品の資産を運用するための勘定のことを一般勘定と呼び、初めから定められた予定利率が保証され、運用のリスクは保険会社が負います。この一般勘定に運用資産の大半(会社によるが、おおよそ80%以上の資産)が置かれており、主な投資対象は債券や貸付金で、ボラティリティの高い株式への投資割合はどこの生保会社も20%以下と抑え目になっております。逆に特別勘定とは、変額保険や変額年金など運用実績に応じて給付が変動するタイプの保険商品の資産を運用する勘定で、運用成果は直接契約者に帰属します。運用資産の割合としては小さいですが、こちらでは積極的に株式にも運用しております。

第一生命の一般勘定:運用残高約6兆円

 

第一生命の特別勘定:運用残高約1.5兆円

 

銀行

銀行も実は「機関投資家」として資産を運用しております。皆さんから預かっているお金を口座に置いておくだけでは、ビジネスとして成立しませんので、そのお金で企業に融資をしたり、個人へ住宅ローンを提供したりします。運用方針としては、リスクが低い債券への投資がメインになります。銀行には厳しい自己資本規制(通称バーゼル規制)が敷かれており、リスクの高い資産(株式や格付けの低い社債)へは投資がしづらい環境があります。例えば、2022年現在A銀行がトヨタ株へ1億円投資した場合、投資額の100%(バーゼル規制によって定められた%)に該当する1億円を別途現金として用意しておく必要があります。これはつまり、トヨタが倒産して1億円分のトヨタ株が紙くずになっても、A銀行にそれを埋め合わせる現金1億円を最初から用意させておくということです。このバーゼル規制がないと、銀行はリスクを取り過ぎて運用資産の大半で株式に投資して、投資先の企業がバンバンと倒産した場合、銀行自体が潰れるリスクもあり、世界経済へも大きく悪影響を及ぼします。したがって、このバーゼル規制の環境下、銀行の投資対象は必然的に債券や国債が大きなウェートを占めます。

また、メガバンクは国債の巨大プレイヤーであり、資産の安全運用の意味もありますが、わが国の経済を支えている側面もあります。

メガバンクの日本国債保有額 2021年末時点

・三菱UFJ銀行:約32兆円(有価証券計:80兆円)

・三井住友銀行:約13兆円(有価証券計:36兆円)

・みずほ銀行:17兆円(有価証券計:40兆円)

 

資産運用会社

ここでは伝統的に資産運用がコアな業務となっている会社を紹介します。金融機関と聞くと皆さんは銀行や証券会社を主にイメージされるかもしれませんが、世界的に見ると資産運用会社も世界経済に大きく影響を及ぼしている金融機関です。BlackRock(世界最大の10兆ドルの資産残高)、 Fidelity(株式に強い)、PIMCO(債券に強い)など、他にも有名な資産運用会社はいくつもありますが、彼らはクライアントから預かっている巨額のお金を複数の資産クラス(株式、債券、不動産、プライベートエクイティなど)へ投資しております。その投資戦略も会社によって多種多様ですが、世界最大規模の資産残高を誇るBlackRockでは資産クラス毎に運用チームを抱えており、さらには個人向け商品としてETF開発事業にも力を入れております。(ETFとはテーマ別で複数銘柄を一つのバケットとして商品化し、上場投資信託として株と同じように売買ができます)さらにBlackRockでは、資産を運用する際にポートフォリオの最適化(リバランス)を図るためにリスク&リターン分析ツールを開発しており、それを自社で利用しているのはもちろんだが、他社へのツール販売も行っております。このように、伝統的な資産運用会社は「仮想通貨ETFなど時代に合わせて素早く商品開発ができる」、「景気後退期に耐えうる強い債券ファンドを組成できる」、など各々の強みを活かしてビジネスを拡大してきました。

 

ヘッジファンド

個人投資家が機関投資家と聞いて、まずイメージするのはヘッジファンドかと思います。ただヘッジファンドといってもファンド毎に投資手法は多種多様で、「ロングショート」、「クオンツ」、「マクロ」、「イベントドリブン」などがあります。この中でも1つの手法に採用しているヘッジファンドもあれば、複数の手法を組み合わせて収益の最大化を狙うファンドもおります。ヘッジファンドの各投資スタイルの詳細は1つの記事として今後作成予定ですが、1つ共通して言えるのはヘッジファンドは基本的に年次の絶対収益率を設けており、その目標を達成するために日々トレーディングをしております。

ここで絶対収益型と相対収益型についてですが、まず後者の相対収益型戦略は端的に言えば「指数に勝つこと」です。相対ということは比べる相手がいて、例えばB資産運用会社のオススメETFは「リターン率として、米国インデックスS&P500を上回ることを目指す」といった商品(ファンド)が実際にあります。逆にヘッジファンドは資産を預けてくれたクライアントに対して「今年は〇%のリターンを目指す」と宣言して、その絶対的な数字を死に物狂いで達成しようとします。

実際のところ、ほとんどのヘッジファンドが指数に勝てないといわれている中、なぜクライアントはヘッジファンドにお金を預けるのでしょうか?指数や相対リターンを目指す場合はどうしてもマーケットに状況に大きく影響されます。2020年~2021年は相場の地合いが良く、指数のパフォーマンスが顕著に良かったですが、2022年に入ってからはマクロの影響もありパフォーマンスが横ばいとなっております。逆にヘッジファンドはマーケットがどんな状況であろうと、自分達で決めた数字を達成するために、日々のダウンサイドリスクを極限までに減らしながらポートフォリオの資産を大きくしようとします。そのためにリスクヘッジのためにショートをすることもあれば、強い根拠を持っている際には個別銘柄に思い切ったショートをぶつけて収益を上げることもあります。皆さんが、自分は100億円超の資産を持っている大富豪だと想像し、お金を運用することをイメージしてみてください。自分の大金がマーケットの状況によって激しく上下することよりも、マーケット状況によって日々下がることなく、年間で10%のリターンを達成してくれれば十分と考えても不思議ではないですよね。これが故にヘッジファンドが指数に勝てなくても一定の需要はあるのです。

 

まとめ

一部の資産運用会社とヘッジファンドは程度の差(日次~年次のリターン)こそあれ、比較的短期目線で収益を上げていることは事実です。ただ年金基金、保険会社、銀行などは基本的に10年以上の長期目線で投資を行っており、我々個人投資家の運用資産も彼らに支えられている側面もあります。また最近ではESG投資に加え、不動産やプライベートエクイティなどのオルタナティブ資産への投資も注目されており、個人投資家にもその傾向が表れてくることが予想されています。

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それではまた、お会いしましょう。