こんにちは、戸田です。
前回は足元の円安要因について簡単に解説しました。
今回は10兆円規模の大学ファンド創設がなぜ新たな円安要因になり得るのか、どれくらいのインパクトが想定されるのか解説していきます。
そもそも大学ファンドとは?
大学ファンドは2021年3月に政府が閣議決定した「第6期科学技術・イノベーション基本計画」に盛り込まれた案件です。JST(科学技術振興機構)の内部にファンドを創設し、そこで10兆円規模の資金を集め、運用と、研究大学等へ資金の拠出を行うことを目的に設立されます。
以下がファンドのイメージ図です。主に政府が出資者となって大学ファンドに資金を拠出、その資金を運用したり、研究大学に配分したりします。
大学ファンドの資金運用はいつから?
日本経済新聞社によれば、大学ファンドは2022年3月までに設立される予定で当初は4.5兆円の運用から始め、22年度中に10兆円の規模を目指すそうです。
以下に添付した「文部科学省の大学ファンド創設に係るスケジュール」をみてもざっくりそのように記されていますし、資料の中に4.5兆円からスタート、大学改革の制度設計等を踏まえつつ、早期に10兆円規模の運用元本を形成と記載がありますので、概ね日本経済新聞社が指摘する通りと考えてよいと思います。
資金運用の割合は?
基本ポートフォリオ(資産構成割合)の正式決定はまだですが、政府会議が策定した「資産運用の基本的な考え方」によるとグローバル株式とグローバル債券への投資比率をそれぞれ65%、35%とするそうです。
※こちらも日本経済新聞社調べです
※内閣府のHPを除いてみたのですが、事務局資料として公表されていない様子でした。私たちにも公表してほしいですね・・・
外為市場への影響は?
モルガン・スタンレーMUFG証券の杉崎弘一マクロストラテジストによると、グローバル債券や、グローバル株式への日本国債や日本株の組み入れ比率は1割程度のようです。真偽のほどは定かではありませんが、「グローバル」とうたっているので、日本割合が少ないのは間違いないでしょう。
ここでは9割を米ドルに替えて投資すると仮定してみたいと思います。
10兆円の9割は9兆円です。
簡易計算で、1ドル100円と仮定すると、900億ドルの円売りドル買いフローが発生します。
私が為替ディーラー時代に1億ドルの円売りドル買いを行った時は、状況にもよりますが、注文の薄いゾーンでは1銭~3銭程度は円安ドル高に動いたように記憶しています。
これを単純に換算してみると、9円~27円(900銭~2,700銭)のドル高要因となります。うーん、さすがにそんなには動かないだろうと言う気がしてきました・・・
さらに言えば為替ヘッジを行う(例えば米債を購入したあとに、満期日に合わせてドル売り円買いの先物取引を行う)可能性も十分にあり得ます。その場合の為替インパクトは極めて軽微になります。
ただ全てを為替ヘッジするわけではないでしょうし、肌感覚としては数円程度、円市場を動かす効果はあると思います。
金額として非常に大きく、マーケットインパクトは小さくないことが伝わったのではないでしょうか?
まとめ
今回の大学ファンド創設の背景に「脆弱化する研究基盤」が挙げられています。以下の資料からは、「資金量、研究者数、博士進学率、国際的な論文数」などいずれも日本の立ち位置は低い、または低下していることが確認できます。
先日、2021年のノーベル物理学賞を日本出身で米国籍の真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員が受賞したことが話題になりました。真鍋さんは日本で研究に従事した時期もあったそうですが、国籍を変え、自身の研究を成し遂げるために米国で研究を行ったそうです。実際のインタビューではかなり日本を慮った表現を用いていますが、察するに、日本の研究環境は他先進国比で随分と劣っているのでしょう。
素晴らしい成果を残された真鍋氏、氏の言葉になんだか私も「やる気」をお裾分けして頂いた気がしました。
それでは本日はここまで。
将来、日本が研究大国になることを祈りつつ、大学ファンドの外国投資(円安効果)を想定したオペレーションに努めたいと思います。
<参考文献>
日本経済新聞:岸田政権に潜む円安要因、大学ファンドが売りに拍車 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB126YO0S1A011C2000000/
日本経済新聞:ノーベル物理学賞に真鍋氏 温暖化予測、気候モデル開発 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC055BF0V01C21A0000000/
文部科学省:大学ファンドの創設について https://www.mext.go.jp/content/20210304-mxt_gakkikan-000013198_03.pdf