目次
なぜ日銀は物価目標を2%に定めているのか?
まず初めに日銀は政策の目標として「2%の物価安定の実現」を掲げている。
なぜ2%の物価安定を目標とするのか?
ようは物価が2%ぐらい毎年上昇していく世の中が望ましいからである。
これがもし0%(変化なし)になればどうなるか?
一見、消費者からしてみればモノの値段が上がらないから良いのでは?と考えるかもしれないが実際は物価が上がらないということは、消費者が今後も値段が変わらないなら今買わなくても問題ないというマインドになるので結果的に価格の下落→企業は売上が伸びない→賃金が増えない→消費意欲がなくなるという悪循環が続くことになる。
逆に10%程度になってしまえばまさに現在世界各国で起きている事であるが、現在の欧米のようにモノの値段の上昇スピードが早くなってしまうと賃金は追いつかない為、生活は苦しくなってしまう。
主要国の7月現在の消費者物価指数(前年比)
上記から日銀は前年比2%くらいの物価上昇が心地よい状態と考えている。
日銀が2%の「物価安定の目標」を実現するために取り組んでいることは?
まず現在日銀は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」政策を実施しており、それぞれ下記の政策を行っている。
・長期金利操作→10年債利回りを低位に誘導すること
・量的→国債の買い入れで世の中にマネーを供給,社債やETF、REITなどの買い入れ
・質的→当座預金の一部にマイナス金利を適用
※その他に、インフレが2%超で安定するまで金融緩和の継続を約束するオーバーシュート型コミットメントもある。
このように「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」とは物価安定の目標に対して複数の方法で経済の活発化を促している。そしてこの政策は主に2つの柱で運営されていることから具体的にはどのようなことなのかをまとめた。
イールドカーブ・コントロール
1つ目の柱がイールドカーブ・コントロールである。イールドカーブ・コントロールとは日本語で表すと「金利(イールド)の曲がり(カーブ)を調節(コントロール)するということであり、つまり長期金利と短期金利を日銀が意図的に調節(コントロール)しているということである。
では実際に長期金利と短期金利をどのようにコントロールするのか?
短期金利であれば
日銀当座預金の中の一つである政策金利残高をマイナス金利にした。簡単に言えば「余ったお金」を民間銀行は日銀に預けていれば0.1%前後の運用利回りが得られていたものを、マイナスにすることで企業や個人に貸し出さざる得ない状況を作り、お金が市場に出回るようにすることで経済が活発になっていくことが狙いであった。
※日銀当座預金:民間銀行が必ず開設しないといけない口座でさらに必ず一定額の預け入れが必要な預金口座のこと。
一方、長期金利は
最近ニュース等でも流れていた、いわゆる「買いオペ」を行っている。正しくは「国債の買い入れオペレーション(操作)」と言い、10年国債金利を0.25%程度で安定させるように日銀が国債を買い入れている。
図1
イールドカーブの特殊な事例
図2 日本国債のイールドカーブ(利回り曲線)
通常であればイールドカーブは図1のように緩やかな右肩上がりになるが、図2は2022年6月14日時点で7年(横軸)あたりにコブのようなものがある。
この「コブ」がある理由は日本国債先物市場において取引されている国債先物は7年債と強く連動している為、10物国債利回りは現在日銀が直接売買により抑えられているが、一方で7年国債には直接介入してこないであろうと考えられ7年国債あたりは先物につられる形となり、金利がどんどんあがってしまっている。こうした流れから2022年6月14日時点の形となっている。
オーバーシュート型コミットメント
2つ目の柱がオーバーシュート型コミットメントである。「オーバーシュート型コミットメント」とは物価上昇率が安定的に目標値(2%)を達成するまで(オーバーシュートする)世の中にお金を日銀が供給し続けますということを約束する(コミットメントする)日銀の強い姿勢を示している。
そして約束することで経済が良くなるという国民の期待へ働きかけている。
これを「フォワードルッキングな期待形成」という。
フォワードルッキングは「先を見越した」や「将来を考えた」を意味する用語である。つまりこの政策は国民の心理面に働きかけることで将来の物価上昇率が上がると考えている。
図3 消費者物価指数の推移
図3は2014年から2022年7月までの消費者物価指数を表したものである。
表から見てわかるように現在2014年以来の2%越えているがこれはウクライナ戦争に伴ったエネルギーの高騰や円安圧力から物価の高騰が進んでいる状況を反映されているだけである。
しかし世界に比べて低い数値となっているのも事実。
図4
消費者物価指数が低い数値の理由としては図4の企業物価指数はアメリカや欧州などと変わらない数値になっている。つまり日本もほかの国と同様にインフレが迫っているものの、企業がコスト削減や販売価格に転嫁しないようにしており、努力というより国民が値上げを許容できない状況ではないかと私は考えている。
一つの例としてカントリーマアムは実は2005年から2020年にかけて重さ11g→10g 枚数30枚→20枚となっており、値段は2005年から323円(税別)と変わらず、総量としては130gも減った事になるから実質値上げ(いわゆるステルス値上げ)である。
※(出所)データでみるカントリーマアム:小さくなっているという噂は本当か!?
こういった現状からまだまだ日本人のマインドに期待という概念は少なく、むしろデフレに戻るのではないか?という恐怖すら感じているように思う。
上記から政策の目標である「2%の物価安定」の達成は金利操作だけでは達成することはできず国民のマインドが大きく影響しており、まだまだ難しい現状となっている。
日銀の金融政策まとめ
今回は日本の金融政策についてまとめました。
この記事のポイント
・日銀は政策の目標として「2%の物価安定の実現」を掲げている
・目標達成の為に主にイールドカーブ・コントロール(金利操作)と世の中にお金を供給し続ける事で景気が良くなるという国民の期待への働きかけ(オーバーシュート型コミットメント)を行っている。
・現状は日銀・国民の双方にとって「心地よい状態」とは言えないと、僕は思う・・・
さて最後までお付き合いを頂きありがとうございました。
実は本記事は戸田裕大ではなく、「為替トレーディング部員」が日本の金融政策についてまとめたものです。※もちろん目は通しています。
彼はもともとは日銀の金融政策について、正直に言えば知っているようで知らないような状態でしたが、本記事の執筆を通じて自分なりに調べて、また第三者に見てもらうことで、こうした素晴らしい記事になったと思います。
最近はYouTubeやTwitter等でさまざまな情報を得ることが出来ますが、実は見聞きしているだけでは理解を深めることは難しいです。先生の授業を見ているだけの状態だからです。こうして人に伝えるつもりでアウトプットをすることで、自分自身の力が身につくのではと考え、試験的に部員の方にご協力を頂いた次第です。
私の目から見て、彼の地力は本記事の執筆を通じて確実に上がったと思っています。もしみなさんも記事を書いてみたいと思う方がいらっしゃいましたらお気軽にご入部ください。