2019年8月20日、新貸出基準金利制度、LPR(Loan Prime Rate)が適用開始となりました。初日は「期間一年」が従来より0.10%低い4.25%、「期間5年超」が従来より0.05%低い4.85%がそれぞれ適用されました。

今後は月に一度20日にLPRが公表され、LPRが変動金利融資契約の参照レートとなります。
そこで本日は中国人民銀行より公表された「オフィシャルQ&A」をもとに今後の人民元貸出市場について考察を進めていきます。
目次
【LPR】オフィシャルQ&Aの内容
オフィシャルQ&Aでは以下三つの質問に対する回答が行われています。
1、なぜLPR形成メカニズムを改善する必要があるのか?
2、LPRはどのようにして形成されるのか?
3、LPR形成メカニズムを改善することで実質金利は低下するのか?
このうち、本日は質問の1&3について考察していきます。2はLPRの決定方法の詳細で、金利水準や今後の施策への影響は軽微であると判断し、割愛します。
質問1、なぜLPR形成メカニズムを改善する必要があるのか?
原文:長年に渡り金利市場改革を推進して、現在までに、下限金利の撤廃を行なった。しかし「貸出基準金利」と「市場金利」の“利率双轨(二つの利率)”問題が引き続き残存している。
補記:1Y SHIBOR(Shanghai Interbank Offered Rate):3.068%、1Y 基準金利(旧制度):4.35%、この差を「二つの利率」が残存していると説明しています。


原文:銀行が融資を行う際、多くの場合「貸出基準金利」を参考にしている。いくつかの銀行は例えば一定の倍率(基準金利の0.9倍:3.915%)までを「暗黙の下限レート」と設定しており、市場金利が実体経済に伝播するメカニズムを阻害している。これは市場利率が低下しているにも関わらず、実体経済への影響が小さい一つの重要な原因である。
補記:「暗黙の下限レート」は、やや銀行に非があることを強調する表現と感じました。ただしもととなる制度が「貸出基準金利制度」である以上、そこから大きく上下にずらしても良くない気もします。
原文:今回のLPR形成メカニズムの改善を通じて、LPRを「市場金利」に近づける。LPRが融資レートに影響を与え、貸出基準金利と市場金利の一体化を進め、金利伝導効率を改善し、実体経済の資本コストの低下を促進する。
補記:ここはとても重要です。最終的に貸出基準金利と市場金利は一体化する方針です。
質問3、LPR形成メカニズムを改善することで実質金利は低下するのか?
原文:LPR形成メカニズムの改革を通じて、「市場金利」のアプローチを採用することで、実質金利の引下げ効果がある。
補記:LPR決定方法と市場金利(Shibor)決定方法がほぼ同一となり、LPRと市場金利が近づく(金利低下)します。
原文:一つ目に、前期の市場金利は全体に大きく低下しており、LPR形成メカニズムが完成した後は、市場金利の低下がより多く新基準金利(LPR)に反映する。
原文:二つ目に、LPR改革が進み、銀行が再び協働して「暗黙の下限金利」を設定することが難しくなり、新基準レート(LPR)が「暗黙の下限レート(基準金利の0.9倍:3.915%)」よりも低下することが可能となる。規制当局と市場利率の自律メカニズムが銀行を監督し、また企業は銀行が協働設定した「暗黙の下限金利」について、当局に報告することが出来る。
補記:旧基準金利4.35%の0.9倍、3.915%よりもLPRが低下することが一つの目安のように感じます。それから企業が規制当局に銀行の不正を報告出来ると言うことで、厳しい監視の目が銀行に働くことになります。
原文:三つ目に、明確に各銀行に新規融資の参考レートをLPRとするよう要求し、残存の変動利率融資契約もLPRを適用する。
補記:銀行はLPRを適用せざるを得ないでしょう。
原文:四つめに、中国人民銀行は、銀行のLPR運用状況および貸出利率競争を、MPA(Macro Prudential Assessment:中国が採用している、金融機関のリスク評価)に組み込み、各銀行がLPRを運用することを促す。
補記:MPAでネガティブ評価を受けると銀行の存続に関わるため、銀行側も積極的に取り組まざるを得ないということになります。伝統的な銀行にとって厳しい環境となるでしょう。
LPR導入を受けて、今後の人民元は?
貸出金利はほぼ間違いなく低下すると思います。基準金利の0.9倍(3.915%)を暗示していますから、3.915%を下回る水準まで新基準金利(LPR)が低下することを予想します。
ここにきて金利改革が進んでいる背景には、米中貿易協議の影響緩和が真っ先にあげられるのですが、実は他に他業種からの圧力がありそうです。別の機会かメルマガにてご案内したいと思うのですが、本文の中に銀行の手数料を厳しく取り締まるという表現があり、一方で他業種との連携を強化すると言う表現も含まれていました。察するに、日本で起きているよりも、さらに大きな動き、テック企業等・他業種の金融業参入の影響があるのかも知れません。
それから実はもう一つ、本丸の金利改革がこの後に控えています。それが「預金市場金利改革」です。以下が現在の預金基準金利になります。

例えば2019年8月19日までは、預金の1年1.5%、融資の1年4.35%、この差の2.85%がおおよその1年の利益となっていました。もちろん銀行内での事務負担、システム負担、規制対応負担、信用コスト、法律コストなどなど、様々なコストが銀行業務にはかかりますので、一概に2.85%利益計上出来る訳ではないのですが、日本(完全自由金利)と比べると、中国の銀行は守られていたと言えます。
おそらく「貸出基準金利改革」の後ろに控えているのは「預金基準金利改革」です。中国の伝統的な銀行にとって、今後は過酷な競争が控えていることが予期されます。
となると、上記に例に挙げた様々なコスト、これをいかに削減出来るか、ここが勝負になってくる。すると当然ですが、人員削減、機械化、AI化、と言う流れになっていく事が予想されます。中国の機械化、AI化はみなさまご存知の通り、日進月歩しておりますから、銀行とテック企業のコラボレーションがすぐ間近まで来ていると言えるでしょう。
LPRのQ&Aまとめ
それでは以下に本日のポイントを纏めます。
・新基準金利(LPR)と市場金利(SHIBOR)の金利差は縮小する
(LPRがSHIBORのレートに近づく)
・一つの目安は1YのLPRが3.915%より低金利になる事
・背景には米中貿易協議の他に、他業種の金融業への参入の影響がありそう
それでは本日はここまで。弊社では今後も人民元を中心に、中国金融・経済情報を発信してまいりますので、引き続きフォローして頂ければ幸いです。
戸田裕大
<参考文献・WebPage>
各種基準金利データ:http://www.pbc.gov.cn/
SHIBORデータ:http://www.chinamoney.com.cn/chinese/
中国人民银行有关负责人就完善贷款市场报价利率形成机制答记者问:http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/3876493/index.html