2019年8月6日、米財務省が中国を為替操作国に指定しました。これを受けて中国人民銀行は「一方的な貿易主義・保護主義へは断固として反対する」との声明を発表しました。
米中貿易協議に関して、もともとは関税に論点が集まっていましたが、ここにきて協議が為替へ波及した格好となります。そこで本日は、米財務省が指定する『為替操作国』とはどのような制度か、そして今後どのような影響が想定されるか、考察していきます。
為替操作国認定制度とは
1988年にレーガン大統領が署名した米国の国内条約(The Omnibus Foreign Trade and Competitiveness Act of 1988)です。具体的には、他国の為替管理制度と、他国と米国との貿易バランスを定期的に分析し、条件を満たす場合に、米国が対象国を『為替操作国』と認定、対抗措置を取ると言う条約です。条約の背景には、貿易はゼロサムゲーム(一方の利益が他方の損失になる)であり、不公平は許されないと言う考え方が存在します。なお、対策方法についても言及しており、1. IMF(International Monetary Fund)と連携して対策を講じるか、2. 輸入措置を設けるとの記述があります。
補記1:トランプ大統領はレーガン大統領を尊敬している事で知られています。かのプラザ合意を成立させたのもレーガン大統領です。
補記2:貿易はゼロサムゲームなのですが、米国は自国通貨が基軸通貨であるため、各国からの投資が多く集まり、結果として通貨価値が上昇し、自国通貨高となるため、貿易で必ず負ける宿命にあります。ですから貿易で米国が勝ってしまうと、基軸通貨でありながら、貿易も勝つと言う、最も不公平な形にな流のですが、そこにはトランプ大統領は言及しません。
では続いて、為替操作国の認定条件をみていきます。
為替操作国認定条件
※U.S. DEPARTMENT OF THE TREASURY (Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States)より抜粋
基準は米国との二国間貿易量がUSD40Billionを超えることに加えて、『対米貿易黒字額がUSD20Billion以上』『経常黒字額が対象国GDPの2%』『一方向への為替介入がGDPの2%』の三つです。この基準は2015年に最新のものへと更新されています。
順に見ていくと、基準の一つ目は、2018年中国の対米貿易黒字額がUSD420Billionですので、該当。基準の二つ目は、2018年中国の経常黒字額は0.4%の為、非該当。基準の三つ目は公表されていない数値のため、判断不可能となります。
補記:三項目のうち一項目しか該当していない、状況が変わっていないにも関わらず、『為替操作国』に認定したことになります。
実は2019年5月28時点で米財務省は中国を『監視対象国』として位置付けていました。基準に変更がない中で、なぜ米財務省は今回中国を『為替操作国』としたのか?
一つは為替レートが1USD7人民元を超えてしまったため、対中貿易赤字が拡大する懸念が高まったと言うことだと思います。また中国人民銀行の発言を意識したのかも知れません。1USD7人民元を超えたことに関しては、先日中国人民銀行より声明が出ており、弊社で纏めておりますので、ご参考にして頂ければと思います。https://yudaitoda.com/market002/
為替操作国(今後の影響について)
米国は既に中国からの輸入品2,500億ドルに対して25%の関税を掛けており、また2019年9月1日から残りの3,000億ドルに対して10%の関税を課す予定で、ある意味、為替操作国に指定する前からメチャメチャに関税かけてますので、これはただただ継続するだけなのだと思います。こちらも弊社ブログに詳細を載せておりますのでご参考にして頂ければ幸いです。https://yudaitoda.com/uschinatrade001/
では関税を除いた注目点はどこか? それは米国とIMFの交渉です。米国はここからIMFを巻き込みに動きます。
IMFと言うのは第二次世界大戦後に新しい通貨制度の枠組みを作る目的で戦勝国が中心となり設立した機関で、本社が米国のワシントンに位置しており、且つ米国が最も多くの投票権(16.52%)を持っている機関です。世界的な金融機関である一方で、米国の影響が非常に強い機関とも言えます。
ところが近年、 中国 もIMFへ多くの資金を出資し、投票権を6.09%まで伸ばしています。また現在のIMFの人民元に対する見方というのは Fairly Valued と言う表現を使っていて、中立です。2016年10月からIMFのSDR(Special Drawing Right , 先進国通貨を合成した準備預金)に人民元が加わっていることも、IMFが人民元を認めている証拠と言えますし、中国もIMFへの大きな影響力を保持しています。
IMFは第二次世界大戦後の通貨の仕組みを形作ってきた機関で、世界の意見を代表する機関でもあります。IMFが米国に寄るのか、それとも中国に寄るのか、これは非常に注目です。なお現時点で弊社はIMFは中立の立場を維持すると考えています。
為替操作国(まとめ)
中国を為替操作国に指定する前から関税を掛けているので、関税に関しては影響なし。米国がIMFを巻き込んでどのような動きを見せるかが鍵を握る。
それでは本日はここまで。『為替操作国』に関する考察、如何だったでしょうか?もしこのブログが役に立ったと思う方は、引き続き当サイトをフォローして頂ければ幸いです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
戸田裕大
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以下、情報ソース・参考文献
U.S. DEPARTMENT OF THE TREASURY:https://home.treasury.gov/system/files/206/2019-05-28-May-2019-FX-Report.pdf
中国人民銀行:http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/3870431/index.html
中国統計データ:弊社過去レポートを参考