2019年7月28日、国家外貨管理局から2018年の年報が公表され、中国マクロ経済 ・国際収支報告・人民元を取り巻く状況・中国の国際投資報告など、全150ページにわたる盛り沢山な内容が公表されました。そこで本日は、読者の方々の関心が高いと想定される『中国マクロ経済』について、国家外貨管理局の公表レポートを基に、分析を試みます。本社への報告等にご活用頂ければ幸いです。
中国マクロ経済
国民経済の安定成長
国民経済は全体的に平穏で、安定して成長、中高速の成長速度を維持し、就業と物価は安定し、経済構造は継続して最適化、質量の着実な改善が見られ、経済・社会は安定して健全に発展した。
2018年の国内総生産(GDP)は90兆309億元、昨年比6.6%成長。
補記:90兆元はざっくり1,440兆円、『中国のGDPが日本の倍』と言っていた時期はつい数年前と言う認識でしたが、気づけば『中国のGDPが日本の3倍』に近づいています。驚異的な伸びです。
工業生産は着実に成長し、企業収益は比較的早いスピードで成長
規模以上(年間2,000万人民元以上の売上規模)工業系企業の企業価値が前年比6.2%増加。利益が6兆6352億元と前年比10.3%増加。利益率は6.5%と前年比0.1%増加。
補記:工業企業の伸びは、GDPの伸びとほぼ同じ割合。
固定資産投資は安定して緩やかに増加し、市場の売上は安定して早く増加
社会全体の固定資産投資は64兆5675億元で、前年比5.9%成長、成長速度は前年比1.3%低下。通年の消費財小売総額は38兆987億元で前年比9.0%成長。
補記:投資の減速分を消費の伸びで補う格好。なお、固定資産投資(64.5兆元)+消費総額(38.1兆元)+政府支出(▲14.9兆円)+貿易黒字(2.3兆元)=中国GDPとなる。
消費者物価は緩やかに上昇、工業生産者価格下落
消費者物価は前年比2.1%上昇。工業生産者出荷価格は前年比3.5%上昇、上昇率は前年比2.8%減少。工業生産者購買価格は前年比4.1%上昇。
補記:中国の消費者物価上昇目標が3%、経済成長の目標が6.0-6.5%、従って2019年の人民元一年物金利は概ね3.0%-6.5%の間で推移する見込み。なぜか?3.0%より低い金利では物価上昇に負けてしまい資産価値を維持出来ない(実質マイナス金利となる)し、6.5%より高い金利では事業など行わず運用に回せば良いとなってしまい実態経済が停滞するから。現在の一年物SHIBOR3.1%と言う水準は実質0.1%金利と言える。調達して事業に回した方が良い局面と言えるし、当局もそれを望んでいる水準。ここは必ず押さえておきたいポイント。
居民の収入は安定して成長
全国居民の一人当り可処分所得は28,228人民元、前年比8.7%成長、価格上昇要因を除くと6.5%の成長。都市居民の一人当たり可処分所得は39,251人民元、前年比7.8%成長、物価上昇要因を除くと5.6%の成長。農村居民の一人当り可処分所得は14,617人民元、前年比8.7%成長、物価上昇要因を除くと6.6%成長。
補記:都市部居民(産業・工業従事)可処分所得が、農村居民(農作業・漁業従事)可処分所得の2.69倍。この差だけでも大きいですが、地域によっては可処分レベルの所得は大きく異なるはず。筆者が訪れたカシュガル(中国最西の街)では出来立てのナン(家族用の大きい品)が2元、一方で筆者が生活する上海のとある駅のパン屋のメロンパン(普通一人前サイズ)は12元。集計そのものは正しいと思うが、地域差が考慮されてない可能性が高そう。
貨幣供給総量は安定して増加
M0(流通中の現金)は7.3兆元、前年比3.6%増加。M1(M0+法人預金)は55.2兆元、前年比1.5%増加。M2(M1 +定期預金+住民貯蓄預金+その他の預金)は182.7兆円、前年比8.1%増加。通年の社会融資規模総量は19.3兆元、前年に近い集計方法を採用し前年比3.1兆元減少。年末の社会融資規模残高は200.8兆元、前年比9.8%増加。2018年全ての金融機関の外貨預金残高は182.5兆元、前年比7.8%増加。全ての金融機関の外貨貸出金額は141.8兆元、前年比8.1%増加。
補記:M0, M1, M2は資金の流通割合。おそらくM0(現金)は発行ベースで管理しているため増加しているが、体感ベースでは現金の使用機会は減っている。M1の数値は法人への融資が割合として少なくなり、個人への融資が割合として多くなったことを示唆している。集計方法が変更になったとの記載があるため、その影響の可能性もある。
輸出入の総量は過去最高を記録、貿易構造は継続して最適化
輸出入総額は30.5兆元、前年比9.7%成長。その内、輸出が16.4兆元で前年比7.1%増加、輸入が14.1兆元で、前年比12.9%増加。貿易黒字は2.3兆元となり、前年比0.5兆元減少。
補記:引き続きの貿易黒字とは言え、年々黒字額が少なくなってきている。人件費が上昇していくため、だんだんと輸出で儲からなくなってきている。代わりの収入源が必要で、そのため対外開放、直接投資を呼び込む姿勢を強めている。海外からの直接投資をより大きく集めるためには人民元国際化は必須であるし、そのためには人民元経済圏を構築していく必要がある。これが『通貨の一帯一路』である。
中国マクロ経済分析(まとめ)
中国の経済指標や政府公表数値について、『正しくない』『集計方法が異なる』『だから信じない』と言う方もいらっしゃいます。そう言う方にお伝えしてほしいことは、日本の経済指標や政府公表数値も誤差がたくさんありますし、世界で統一した基準はないと言うことです。そもそも各国にはシャドーエコノミーと呼ばれる、統計に出てこない数値(ダフ屋の売上、屋台)がたくさん存在しています。ようは数値だけで国の全てを語ることなど不可能。ではどうしたら良いか?これは数値を頭に入れておきながら、各地に足を運び、目で見て、聞いて、感じると言うことが重要となります。百聞は一見にしかず。
本日はここまで。もし内容に共感して頂ける方は当レポートを必要とされている方へ転送して頂けると嬉しいです。また中国経済・金融市場についてもっと詳しく知りたいと言う方はコンタクトページよりお気軽にご連絡くださいませ。今後ともよろしくお願いいたします。
若竹商务咨询 户田裕大
国家外貨管理局の公表レポートへのリンク
http://m.safe.gov.cn/safe/file/file/20190728/108d3e1d09ac4d52b99685e6aaa9c222.pdf
中国金融 対外開放の拡大へのリンク
https://yudaitoda.com/financialpolicy001/