本日は公表された国家外貨管理局の公表レポートを基に、中国と海外との収支を纏めた『国際収支』について分析します。本社へのご報告等に活用頂ければ幸いです。
なお中国全体の収支を分析する場合には、『国際収支』の他に、国内収支、つまり『政府』『企業』『家計』の収支を分析する必要があります。本日はあくまで海外との財やサービスのやりとりを表す『国際収支』にフォーカスします。
それでは早速公表された内容を分析していきます。なお公表数値は全て米ドルです。

一、中国国際収支基本状況

原文:2018年、中国の国際収支及び経常収支は基本的にバランス、金融収支は引き続き黒字。経常収支黒字額はGDPの0.4%と合理的な範囲内。金融収支黒字は1,306億ドル、前年比210億ドル増加。
補記:画像の金融収支の数値と61億ドル統計誤差が発生しております。おそらく執筆ミスだと思いますので、弊社の計算値が正しいものとして、このまま進めます。
補記:国際収支は大きく三つの項目で構成されており、一つが経常収支(貿易・サービス収支)、一つが金融収支(債権・債務)、一つが外貨準備増減です。シンプルにどの項目が儲かっていて、どの項目が儲かっていないのか把握することが重要です。

(一)【中国国際収支】経常収支は基本的にバランス

原文:貿易収支は堅調。2018年、我が国の貨物貿易輸出額は2兆4,174億ドル、2017年と比較して9.1%成長。輸入額は2兆223億ドル、16.2%成長。貿易収支黒字額は3,952億ドルと、昨年比17%減少。
補記:貨物貿易輸出額の内、約5,300億ドルが米国向けで、残り(約1兆9,000億ドル)が他地域への輸出です。貿易はしっかり儲かっています。
原文:サービス収支赤字は緩やかに増加。2018年サービス収入額は2,336億ドル、前年比9.6%増加。サービス支出は5,258億ドル、前年比11.4%増加。サービス収支赤字は2,922億ドル、前年比12.9%増加。その内、輸送収支が669億ドルの赤字、旅行収支が2,370億ドルの赤字で、昨年比8%増加。
補記:サービスは大幅赤字です。輸送収支及び旅行収支の赤字が大きいことが分かります。これは『海外への旅費』と『爆買い』の影響です。
原文:第一次所得、収入額は2,348億ドル、前年比18.3%減少。支出額は2,862億ドル、前年比3.8%減少。第一次所得収支は514億ドルの赤字。その内、従業員報酬は82億ドルのプラス、投資収益は614億ドルの赤字。投資収益、我が国の対外投資収益は2146億ドル、外国人の中国からの投資利益・利息・配当の合計額は2,760億ドル。
補記:第一次所得収支とは、配当金や利息など対外債権債務から発生するお金です。まだまだ第一次所得額が少ない、つまり海外への企業進出、海外への投資がまだまだ足りていないことを意味します。国を上げて海外市場にチャレンジする理由がここにあります!
原文:第二次所得収支の逆差は縮小。第二次所得収入は278億ドル、前年比1.5%減少、第二次所得支出は302億ドル、前年比24.6%減少、第二次所得収支は合計で24億ドルの赤字、2017年比79.7%減少。
補記:第二次所得収支とは対価の伴わない寄付・贈与などの資金です。

(二)【中国国際収支】金融収支の黒字額増加(除く外貨準備)

原文:直接投資の黒字額が拡大。直接投資黒字額は1,070億ドル、前年比2.9倍増加。中国から海外への直接投資は965億ドル増加、前年比30.2%減少。海外から中国への直接投資は2,035億ドル、前年比22.5%増加。
補記:投資は、現地企業に対する経営参加や支配を目的とした『直接投資』と、配当や利子の獲得のために外国の有価証券を取得する『証券投資』に分けられます。
補記:中国から海外への投資を絞り、中国の対外開放を通じて海外から中国への直接投資が増加していることが分かります。また各省毎に競わせている企業誘致がこの項目に大きく影響します。
原文:証券投資の黒字が顕著に拡大。証券投資黒字額は1,067億ドル、前年比2.6倍。その内、中国から海外への証券投資が535億ドル増加、前年比43.6%減少。海外から中国への証券投資は1,602億ドル、前年比28.9%増加。
補記:直接投資同様、中国から海外への投資を絞り、中国の対外開放を通じて海外から中国への直接投資が増加していることが分かります。国策である金融の対外開放がこの項目に大きく影響します。
原文:その他投資は赤字。ローン、貿易信用等その他投資は赤字770億ドル。その内、中国から海外への投資は1,984億ドル、前年比96.8%増加。海外から中国へのその他投資は1,214億ドル、前年比20.5%減少。2017年は黒字519億ドル。
補記:中国から海外へのその他投資96.8%増加は、海外新興国へのローンが焦げ付いているように見えます。さらっと記載していますが、リスクが潜んでいるように見受けられます。

(三)【中国国際収支】外貨準備は基本安定

原文:取引により形成された外貨準備が189億ドル(為替レートや価格の変動を除く)。2018年末時点、外貨準備金は3兆727億ドル、2017年末比672億ドル減少。主に価格変動の影響による。
補記:新規に外貨準備を189億ドル相当積みましたが、価格の変動により672億ドル減少したと言う意味です。外貨準備金は3兆727億ドルありますから、2%程度の価格下落があったと推測されます。為替レートは外貨準備を使わずにある程度コントロール出来ていることが伺えます。

二、中国国際収支展望

2019年、中国の国際収支は基本的にバランスを予想。

原文:経常収支は基本的にバランスを維持。第一に貨物貿易の輸出入の上昇率は安定し、一定規模の黒字額を計上出来る可能性が高い。一方で中国の輸出と外需は減少したが、輸出競争力は依然として強い。IMFの予測によれば2019年の世界経済成長率は3.3%で、0.3%減少予定。
原文:我が国の製造業は成熟したインフラを有しており、完成した産業サプライチェーン、大量の技術者と共に、更に改善と改革を推し進め、関連商品の国際競争力を維持する。また我が国は質の高い発展に注力する。内需が相対的に安定している中、輸入は更に安定して増加する。
原文:サービス収支の赤字は徐々に安定する。旅行項目の赤字が依然としてサービス収支の主因であるが、我が国民の海外旅行・留学の需要は落ち着いてきており、例えば旅行収支の赤字成長は一桁に収まり、需要が最高点に到達した可能性があり、更なる上昇余地は限られる。これは自然な規律とプロセスである。最後に国内サービス業の質が改善し、生活環境と、制度などの改善に加え、国内居住者の国境を越えた消費は理性があり平穏である。
補記:一点注目したいのが貿易黒字を2019年も残せるかどうか。人件費が高騰、米中貿易協議が継続、このような中でも貿易黒字を例年並みに残せるか注目です。ここは割り引いて考えた方が無難です。

国境を超える資本フローは安定

直接投資に関して、中国を活用する国が拡大、将来中国が開放する領域を更に拡大し、国内市場の重要性は継続して改善すれば、中国は依然として直接投資を誘致する大きな可能性を秘めている。国連貿易開発会議の統計によれば、2017年末、中国の海外直接投資残高は中国GDPに対して12%、同時期の世界平均は39%で、発展途上国の平均レベルは33%。
補記:中国への投資は、中国の経済規模と比較すると少ないことがわかります。今後、中国への投資を誘致するために、各種規制をますます緩和していくであろうことが想定されます。
証券投資に関して、2018年、中長期的な資産配分を目的として、海外の中央銀行や金融機関からの資本流入が増加した。現在、国内資本市場における外国人投資家の割合は低い。将来的には、中国の株式市場と債券市場が徐々に国際的な主要指数となるにつれて、さらなる開放と円滑化の政策の下で、中国は国際資本・資産の重要な投資場所となる。
補記:世界から米国に流入している資金が、中国に流入してくるであろう未来を予想しています。弊社はこれは時代の流れであると考えています。

中国国際収支分析(まとめ)

それでは以下に本日のポイントを纏めます。

  • 貿易収支の黒字額が、国際収支の黒字額に大きく影響 → 人件費が上昇する中で、貿易黒字を維持することが出来るか
  • サービス収支(旅行収支)の赤字が、国際収支に大きく影響している → ただし今後落ち着く傾向が見られている
  • 海外からの利息や配当の受け取りが少ない → 中国の目下の課題
  • 金融収支の黒字が拡大している → 開放路線の効果
  • 金融収支の黒字の傾向は今後も続く見通し → さらなる開放路線を示唆

いかがだったでしょうか。『国際収支』を分析することで中国と外国との取引やお金の流れの全体像、さらには『国策の意図』を掴むことが出来たと思います。今後は『国内収支』を分析し、中国の収支状況を完全に把握することを計画しておりますので、引き続き当ブログをフォローして頂ければ幸いです。

戸田裕大

参考文献・WebPage
国家外貨管理局の公表レポートへのリンク
http://m.safe.gov.cn/safe/file/file/20190728/108d3e1d09ac4d52b99685e6aaa9c222.pdf

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2018年中国マクロ経済分析 https://yudaitoda.com/economy001/
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