2019年8月5日、為替人民元相場(ドル/人民元相場)が11年ぶりに 1ドル7.0人民元 の大台へと突入しました。この相場変動を受けて、 中国人民銀行 が人民元相場に関するQ&Aを公表しております。そこで本日は記者会見の内容の和訳、そしてその和訳を弊社が補記していきます。中国で財務を担当している方に必ずご覧頂きたい内容となっております。
目次
為替人民元に対する中国人民銀行の見解【中国人民銀行 の責任者のQ&A(記者:Financial Times)】
記者:為替人民元はなぜ1ドル7.0を突破したのか?
回答:一方的な貿易主義・保護主義への措置、及び、対中関税の影響を受けて、人民元は対米ドルで下落、1ドル7.0人民元を突破、ただし人民元はバスケット通貨(24種類の貿易上重要な通貨)に対して、継続して安定して強く、これは市場の需給及び、国際的な相場変動の反映である。
中国は市場の需給とバスケット通貨の変動をベースに調節、管理変動相場制を実施している。市場の需給は相場形成の決定的な作用を果たし、人民元為替レートの変動は上述のメカニズムによって決定される、これが中国の管理変動相場制度である。
グローバルな視点で観察すると、為替レートが変動するのは当然のことで、変動要因が発生すると、価格メカニズムの効力が働き、資源を再配置し、レートを自動調節する。過去20年間の人民元相場の変動を振り返ると、人民元が対米ドルで8.0人民元を超えていた時期もあり、7.0人民元、それから6.0人民元の時期もあって、現在人民元相場は7.0人民元より上で推移している。
重要なことは、人民元相場が7.0を破ったということ、7.0は年齢ではないが、一度超えたらすぐには戻ってこない、そしてダムでもないが、一旦壊れてしまうとその水はすぐに千里先へと流れてしまう。7.0という水準は貯水池の水位に近く、雨季には水位が高くなるが、乾季になると水位は再び低くなる、水位が高くなったり低くなることは、正常なことである。
補記:7.0が貯水池の底辺、つまりそう簡単には6.0台後半に戻ってこないことを示唆しているものと推測される。無論、需給によるが、このコメントのアナウンス効果は相当に強いと判断する。
確かに、最近の人民元は対米ドルで下落していますが、ただし歴史的に見ると、人民元は相対的に高い水準にいます。20年間で、国際決済銀行の試算によると人民元の名目実効為替レートと実質実効為替レートは30%前後上昇しています。人民元は対米ドルで20%上昇していて、これは主要通貨の中で最も上昇しています。
2019年初から、人民元は国際通貨の中で依然として安定した地位を保持していて、人民元対バスケット通貨で人民元は強く、CFETS人民元指数(24種類の貿易上重要な通貨との力関係)は0.3%上昇している。年初から、8月2日(先週金曜日)まで、ドル人民元仲値(毎朝中央銀行が発表する人民元レート)は対米ドルで0.53%下落、これは同時期の韓国ウォンより下落幅が小さく、アルゼンチンペソ、トルコリラ等の新興国通貨の下落と比べれば安定しており、さらにユーロやイギリスポンドなどの準備通貨と比べても強い。
記者:今後の為替人民元レートのトレンドについてどのように考えているか?
回答:人民元レートのトレンドは、長期的にはファンダメンタルズ(経済の基礎的要因)によって決まり、短期的には市場の需給と米ドルのトレンドが大きな影響を与える。為替レートの形成を市場に委ねるということは、需給によって価格が調整され、マクロレベルでは経済や国際収支が調整される。
中国は一つの大国として、製造業種はかなり整っており、産業形態も比較的整っている。輸出部門の競争力は高く、輸入依存度は中程度で、人民元相場の変動が中国国際収支の強い調整作用となり、外国為替市場自身が均衡点を探る。
補記:つまり為替相場をある程度市場に任せることで、価格や国際収支が自動的に調整され、翻って人民元の価格が適正な水準に落ち着くと言うこと。
マクロの視点では、中国の経済は基本的に良好で、経済構造改革はポジティブな結果をもたらし、成長の勢いは強い。マクロレバレッジ率(経済規模と資金流通量のバランス)は基本安定、財政状況は健全、金融リスクは全体的にコントロール可能、国を跨ぐ資本の流れは概ねバランス、外貨準備は十分にあり、これら全てが人民元の基本的な安定を支えている。特に欧米等の先進国経済の貨幣政策が緩和的であるという状況が、中国を主要経済の中で唯一通常の貨幣政策(量的緩和していない)を維持している国であり、しかしながら人民元資産の評価は低く、かつ相対的に安定しているため、人民元資産は全世界の資金の受け皿となりうる。
補記:弊社も中長期的には人民元資産が全世界の資金の受け皿に成りうると考えています
近年の相場変動の中で、人民銀行は豊富な政策ツールの経験を積み上げ、外国為替市場に正しいフィードバックを行い、必要に応じて対象となる政策を実施し、短期投資を徹底的に取り締まり、外国為替市場の円滑な運営を維持し、市場の期待を安定させてきた。中国人民銀行は、人民元の為替レートを基本的に合理的かつバランスのとれた水準で安定させるための経験、自信、および能力を持っています。
補記:潤沢な外貨準備預金と外貨管理局制度が有効に機能しているため、相場は基本的に安定しています。資本移動が自由な日本と、資本移動に制限を掛けている中国では、相場の安定度は完全に異なります。
記者:為替人民元レートが7.0を超えたことに対する在中国企業への影響は?
回答:改革開放が中国の基本的な国策、為替管理は改革開放を堅持、さらに一歩進んで、国を跨ぐ投資や貿易の利便性強化、実体経済により良い影響を与えるため、7.0を超えても政策を変えることはない。
一般の人々にとって、過去20年間で、人民元は対米ドル、対通貨バスケットに対して上昇し、下落している時間は少ない。中国の人々の主要な人民元資産は最もよく保護され、そのため対外的な購買力が着実に増加。 これらは、海外への旅行、海外での買い物、子供の海外留学に反映された。
補記:とても重要なことで、新聞等でも時折誤解されていますが、基本的に通貨高が国を豊かにし、通貨安が国を貧しくします。ですので通貨安政策と言うのは基本的には一時凌ぎ政策であると言う理解が重要です。
企業にも同じことが言える。 企業が過度に為替リスクにさらされることを望まないし、企業が為替リスクを回避するために為替ヘッジ商品を購入することを支持している。 企業だけでなく、より専門的な金融機関でも、為替レートを予測することは困難。
補記:要は今までの人民元の安定性と言うのは、非常に在中国企業の力になっていたと言うことです。ただしこれからはもっと大きく人民元が動くようになりますので、ここでヘッジの重要性について言及していると言うことです。
したがって、一般企業は物理的な事業に集中し、為替相場の傾向を判断したり投機的な為替相場の傾向を見極めたりするためにエネルギーを使いすぎないようにするべき。 本業の確実性と収益性を目的として、外国為替デリバティブ取引そのものの収益性を目指すべきではない。
補記:これは全くその通りで、ただしここに付け加えるとすれば、中長期的な相場の見通しやトレンドは把握していないと、そもそも企業の競争力が失われると言う視点も重要であると言うことです。
1ドル7.0為替人民元の中国人民銀行の見解まとめ
それでは以下に本日のポイントを纏めます。
- 人民元が7.0を超えたことでしばらくは6.0台に戻って来ないことを示唆
- 対外開放路線、人民元国際化路線を堅持
- 人民元の安定には自信(ただしリスクヘッジは推奨)
いかがだったでしょうか。実は中国の為替政策と言うのはものすごくクリアなんです。ですからきちんと労を掛けて調べて、当局から明確なメッセージ(中央銀行とのコミュニケーション)を頂くと言うことが経営に必ずプラスになります。弊社では特にこの分野には自信を持ってお客様へ情報のご提供、ご相談への対応を行なっておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。今後ともブログをフォローして頂ければ幸いです。
参考文献
中国人民銀行原文 http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/3869683/index.html
国家外貨管理局 http://m.safe.gov.cn/
中国外汇交易中心 http://www.chinamoney.com.cn/chinese/