こんにちは、戸田です。
本記事では『人民元5つの特徴』と題しまして、特に覚えて頂きたい人民元の特徴について5点に絞ってご案内いたします。これら5点を覚えて頂ければ、人民元に対する理解が深まり、為替リスク管理や取引の役に立つと思います。
1. オンショア人民元とオフショア人民元
人民元には二つの市場が存在します。一つが中国内で取引される『オンショア人民元(以後CNYと表記 )』、もう一つが中国外で取引される『オフショア人民元(以後CNHと表記)』です。
CNY は先物取引やオプション取引にかかる規制が多く存在する一方、CNHは先物取引やオプション取引にかかる規制がございません。また二つの通貨のレート差は極小です。そのためCNHは、香港・ロンドン市場を中心に、広く世界で使用されています。また日本の皆様がお取引している人民元もCNHです。
ここではまず人民元にはCNYとCNHの二つの市場が存在すると言うことだけ覚えておきましょう。
さてここからは中国内の、つまりCNYに関する制度をご案内していきます。日本のみなさまが取引するのは規制のないCNHですが、そもそも国内の人民元であるCNYが存在して、その動きがもととなって、CNHも変動しますので、分析はCNYを中心に進めていく必要があります。
2. 管理変動相場制度
中国は独自の『管理変動相場制度』を採用しており、これは日本と大きく異なります。当該制度に関する通達の原文と抑えるべきポイントを記載します。ここは必ず押さえておきましょう。
- 通達の原文
市場の需要と供給を基礎とし、通貨バスケットによる調節を加えた、管理を必要とする相場
- ポイント
- 市場の需要と供給を基礎とすること
- 通貨バスケットによる調節が行われること
- 当局の管理を前提とした相場であること
1は日本と同じですが、2と3については馴染みがないと思います。ですが2はシンガポールが、3は香港がそれぞれ採用している制度ですので、この機会に覚えておきましょう。
では次に中国独自のバスケットによる調節について確認しましょう。
3. 通貨バスケット
以下が中国人民銀行傘下の中国外汇交易中心(通称CFETS)が公表している通貨バスケットの比重です。バスケットの中でUSD/EUR/JPY/KRWなど、中国と貿易量の多い国が高い比重を占めていることがわかります。つまりCNYはUSDのみと連動している訳ではなく、EUR/JPY/KRWとの為替レートとも連動しています。人民元が比較的安定して推移する理由の一つとしてぜひ覚えておいてください。
なおCFETSとは China Foreign Exchange Trade System の略称で、国内の全ての人民元インターバンク(銀行間)取引はCFETSを経由して行われるルールが制定されています。従って中国人民銀行はCFETSを通じて人民元取引のデータ収集や相場変動の管理が容易に行えるように設計されています。CFETSは中央集権型のシステムと言えるでしょう。
4. 対米ドル基準値
中国人民銀行は北京時間の朝9時15分ごろ、人民元と各種通貨との交換レートに関する基準値を公表します。基準値は通称『中心レート』と呼ばれ、中でも最も注目を集めるのが中国内で最も取引の多い、対米ドルの中心レートです。なお日中の対米ドルの値動きは中心レートから上下2%までと定められています。値動きに2%の制限を設けている通貨ペアは対ドルのみ。基軸通貨である米ドルを強く意識した政策と言えるでしょう。
なお、中心レートは北京時間の 23:30-翌朝9:00(人民元の営業時間外) のバスケット通貨の動きを機械的に反映し、9:15頃に算出されますが、相場が一夜の間に急激に変動した場合や、当局の意向に沿わない方向に動いている場合には調整が行われます。これが管理相場と呼ばれる所以です。
しかし注意深く観察すれば、中国当局が為替をどちらに動かしたいのかを読みとくことも可能となります。ここに人民元の勝機が詰まっています。
5. 実需原則
中国は実需原則を採用しています。この実需原則の指導を徹底して行っている機関、それが外貨管理局です。
外貨管理局は在中国企業や投資家の全ての外国為替取引のルールを策定している機関で、いわば外国為替取引の監督機関です。外貨管理局は銀行に対して、取引の実需確認の徹底を要求し、銀行は毎日の両替や為替予約の金額を正確に外貨管理局に報告します。
従って在中国企業や在中国の投資家は投機目的で売買を行うことは出来ません。ですから人民元は基本的に実需で動きます。
また急激な人民元安、または人民元高局面において、外貨管理局が企業の実需取引に対しても制限を設ける場合があります。実需ですら、相場状況に応じて取引制限が設けられる、これが人民元です。
ですから、人民元が対ドルで急騰したり、急落したりする可能性はほぼありません。断定的な物言いですが設計上そのようになっています。ここはとても重要ですので、必ず覚えておくようにしてください。
まとめ
それでは最後にポイントをまとめます。
- オンショア人民元(CNY)とオフショア人民元(CNH)が存在する。ただし分析はCNYを中心に行うべき。
- 中国は管理変動相場制を採用している。この機会に管理変動相場制について覚えてしまおう。
- 中国は通貨バスケットを用いてUSD/EUR/JPY/KRWなどと連動して推移するよう調整している。また中央集権型の取引システムを用いて、相場変動の管理を容易にしている。
- 人民元には対米ドルの基準値(中心レート)が存在し、日中の値動きは上下2%に限定される。また基準値の決定には当局の意向も反映される。当局の意向を把握し、トレードに活かそう。
- 中国は実需原則。従って基本的には実需が相場を動かす。また外貨管理局が全ての取引を管理しているため、相場の急変動は極めて起こりにくい。
さて本日は『人民元5つの特徴』としまして、5点に絞ってご案内をいたしました。GDP世界第二位の中国の為替制度ですが、意外と知らないことも多かったのではないでしょうか?中国に関して、我々日本と統治制度や主義が異なることから、情報が正しく伝わらないケースが散見されます。今後も日中の取引は増えていくことが想定されますので、ぜひ弊社情報を通じて中国金融に関する知識を深めて頂ければ幸いです。
今後とも役立つ情報を発信出来るよう努めてまいりますので引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。
<参考文献>
中国人民銀行:“人民币汇率制度”的内容
http://www.pbc.gov.cn/huobizhengceersi/214481/214545/214769/3871699/index.html
中国人民银行公告〔2014〕第5号(扩大外汇市场人民币兑美元汇率浮动幅度)
http://www.pbc.gov.cn/tiaofasi/144941/3581332/3587411/index.html
CFETS:关于调整CFETS人民币汇率指数货币篮子的公告
http://www.chinamoney.com.cn/chinese/rdgz/20191231/1496888.html#cp=bkrmbidx
国家外汇管理局:基本职能
http://m.safe.gov.cn/safe/jbzn/index.html