さて本日は為替相場分析の基礎、「経常収支分析」についてお話をしていきます。

過去記事なぜFXで負けるのか?3つの視点から解説します!」では、為替相場予測の精度が向上すれば、勝率が大きく改善することをお伝えしました。また、そのなかでは、必要で且つ正確な情報を元に分析をすすめ、この通貨は上がりそうだ、下がりそうだと結論を導き出し、意思決定を下すことが重要であるとお伝えしました。

今回は、為替相場分析の基礎、「経常収支分析」を用いて実際に分析を進めてみたいと思います。それでは早速みていきましょう。

 

経常収支分析とは?

そもそも経常収支とは何でしょうか?聞きなれない言葉かも知れませんが重要な用語ですのでぜひ覚えてください。

経常収支とは簡単に言えば、一国の海外との貿易やサービスなどの収支をまとめたもので、言ってしまえばその国の「損益計算書」のようなものです。企業と同様、国にも、営業活動の好不調があり、それを計測しています。

私は個別株の取引を行ったことはありませんが、おそらく個別株を取引する際の基本は、企業の決算を見て、企業の好不調を判断することだと思います。そのため、企業の有価証券報告書や、もう少し簡単に会社四季報と呼ばれる決算情報の要約が記されている書籍をもとに、売買を行う銘柄を決定する方が多いのではないでしょうか?

為替も同様になります。取引する通貨、すなわち国の好不調を分析していくことがとても重要です。

特に新興国通貨の分析で欠かせないのが経常収支です。投資家は、国際的な信用が相対的に低く、資産の少ない国が多い新興国に対して、海外からの投資だけでなく、自ら本当に稼ぐ力があるのかどうかを見定めています。

経常収支が黒字の国は良いサイクルに入ります。貿易やサービスで獲得した外貨をもとに、国内に再投資を行うので、国内の経済活動が活発になります。また貿易やサービスで獲得した外貨を、国内の通貨に両替しますので、外貨売り、自国通貨買いの取引が先行します。つまり自国通貨の価値が高まりやすくなるのです。

反対に経常収支が赤字の国は悪いサイクルに入ります。貿易やサービスで獲得した外貨よりも、貿易やサービスの対価として支払う外貨の方が多いので、外貨が足りなくなります。足りなくなった外貨を支払うために、自国通貨売り、外貨買いの取引が先行するので、自国通貨の価値が継続的に低下していきます。

理論の要約としては以上になります。次に実際の経常収支や為替レートを用いて分析していきます。

 

分析の具体例

ここではFXで人気の通貨、トルコリラとメキシコペソを、日本円と比較して分析していこうと思います。トルコとメキシコは経常収支赤字国、日本は経常収支黒字国ですので比較に最適と考えました。

以下が世界銀行のデータを用いた経常収支の推移です。単純な経常収支の金額で比較をすると、国の経済規模は日本がとても大きく、比較しがたいので、それぞれの経済規模(GDP)で引き直すことで、データに統一性を持たせました。つまり計算式は、経常収支÷GDPです。

観測期間において、日本は0~+4%で推移している一方、メキシコは0~▲4%で推移しており、トルコは0~▲10%で推移していることがお分り頂けます。つまり日本は良いサイクルに入っている一方で、メキシコは悪いサイクルに入っており、トルコはさらに悪いサイクルに入っていることがわかります。

次に同一の観測期間における為替レートをみていきましょう。メキシコペソ円(MXN/JPY)とトルコリラ円(TRY/JPY)をみていきます。

トルコリラ円とメキシコペソ円のチャート

2009年1月を100%として、通貨の変動率を示しました。メキシコペソ円は11.1%、トルコリラ円は62.2%減価していることが分かります。

2012年の年末から日本がアベノミクスと呼ばれる大規模な量的緩和に踏み切ったことから、円安に支えられて底堅い展開が続くこともありましたが、10年を通してみるとやはり両通貨共に大きく下落していることがわかります。また経常収支赤字幅の大きなトルコリラがより減価していることが見てとれます。

もちろん、為替レートの決定要因は経常収支だけではないので、経常収支が赤字だからといって必ず減価するわけではありません。しかし経常収支が為替レートの決定に大きく影響しているであろうことはこのグラフからある程度、見てとれるのではないでしょうか。

 

経常収支分析でよくある勘違い

一点、気を付けて頂きたいことがあります。それは米国および米ドルは経常収支分析だけでは語れない点です。

米国の経常収支は以下のように長年赤字を続けています。

しかし米ドルの相対的な価値を示すドルインデックスは必ずしも減価しているわけではありません。むしろ10年間で12.0%増価しています。

ドルインデックス

米ドルは基軸通貨です。つまり世界の多くの方が米ドルで通貨を保有しています。

米ドルを保有している投資家が多いこともあって、投資対象として、米債や米株が大変人気です。そのため世界中から米国に投資が行われています。

ゆえに米国は経常収支が赤字でも、世界中から投資資金が集まってきますので、通貨の価値は安定します。これは基軸通貨である米ドル独特の特徴ですので、ご留意ください。

実は経常収支の他にも、所得移転等収支、金融収支と言う項目があり、これらを合計したものが「国際収支」とよばれています。ですから本来的には国際収支を分析する必要があるのですが、米国を除くと特に重要なのは経常収支になりますので、本日は経常収支を用いて論を展開しました。

 

まとめ

本日は多くの投資家が行う経常収支分析について、簡単に解説をさせて頂きました。特に覚えておいて頂きたい3つのポイントを以下にまとめておきます。

  • 経常収支が黒字の国は買われやすく、経常収支が赤字の国は売られやすい
  • 経常収支を分析する際は、併せて国の規模も考慮した方がよい
  • 米国は基軸通貨なので、経常収支だけで判断をすると見誤る

経常収支分析は、非常に役に立つ、シンプルな分析手法です。特に新興国通貨の買い持ちを検討されている方は、まずは経常収支に着目してみると、勝率が大きく改善すると思います。

ぜひ投資を行う前に、その国の経常収支はどのようになっているか、確認を行ってみてください。

なお、私たちが運営するサロンでは月に1度勉強会を開催しており、直近ではこのようなファンダメンタルズ分析手法を詳しく会員のみなさまに共有させて頂いています。「テクニカル分析に限界を感じてきた」「ファンダメンタルズ分析を学んでみたい」と言う方におススメの出来るサービス内容になっておりますので、ぜひご検討をよろしくお願いします。

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以上で、本日は終わりとなります。最後までお付き合いを頂きありがとうございました。

 

ご留意事項

日本の国際収支分析に関する用語説明

DXY(ドルインデックス)は必ずしもドルの相対的な価値を正確に表しているわけではありません。特にユーロや英ポンド、日本円などの動きに左右される指標ですが、一方で多くの方に使用されている指標でもあるので、本記事ではDXYを採用しました。

経常収支は世界銀行、為替レートはInvesting.comのデータを活用しています。