こんにちは、戸田です。
本日は為替レートの長期トレンドを説明する指標として広く知られている購買力平価と為替レートの関係ついて簡単に解説します。
この理論(外国為替の購買力平価説)の提唱者はスウェーデンの経済学者「グスタフ・カッセル氏」ですが、原文に辿りつけなかったので、日本の経済学者である藪 友良(やぶ ともよし)氏の論文「購買力平価(PPP)パズルの解明:時系列的アプローチの視点から 」を引用します。
さっそく本題に入っていきます。
購買力平価とは
購買力平価は外国為替レートの決定要因を説明する一つの理論です。
約100年前から提唱されている理論で、同一の財(モノ)であれば、世界中どこでも同一価格が成立している(一物一価)と仮定し、為替レートがその調節機能として働いていることを証明します。
財の例として日本と米国の「電卓」について考えてみます。
ドル円レート:1ドル=100円
日本の電卓:1,000円
米国の電卓:15ドル(1,500円相当)
購買力平価レート:1,000円 ÷ 15ドル = 66.67円
この場合、電卓を割安の日本から割高な米国へと輸出すれば、1台当たり500円の利益が得られます。このため、日本で電卓を買い、米国で電卓を売る動きが広まります。この裁定取引(Arbitrage)は日本の電卓価格の上昇と米国の電卓価格の低下をもたらし、両国の価格差がなくなるまで(一物一価が成立するまで)続きます。つまりドル円は1ドル=100円から、1ドル=66.67円(電卓価格の差がなくなる均衡地点)に向かって収束していく、これが購買力平価の大まかな考え方です。
※無論、上記の場合は財の価格そのものに調整が入る可能性が高いですが、本題の為替レートとの関係を強調するため、為替レートのみで解決される場合として66.67円を用いています。
蛇足ですが、商売として「安く仕入れて高く販売する」を行っているのが商社ですよね。ですからマクロ的な視点に立てば商社は為替レートやモノの値段の調整機能になっていると考えることも出来ます。ゆえに商社の方はモノの価格や、為替レートを日々意識している方も多いです。
ビッグマック指数とは
世界中にあるマクドナルドのビッグマックを指標にするとどうだろう?と考案されたのが「ビッグマック指数」です。英エコノミスト誌が作成、公開しているのですが、私たちもこのデータを容易に参照することが出来ます。
上図はビッグマック指数を用いて、米ドルを基準に日本円の価格を計算したものです。2021年7月のデータは The Japanese Yen is 37.2% undervalued against the US dollar と記載されており、日本円が米ドルに対して37.2%安く評価されていることが分かります。
具体的には以下の計算式となります。
日本のビッグマック:390円
米国のビッグマック:5.65ドル
ビッグマック価格をもとに計算した適切なドル円(USD/JPY)レート:1ドル=69.03円(390÷5.65=69.03)
算出時のドル円為替レートが109.94円ですから、ビッグマック指数の為替レート(69.03円)が随分と円高水準を示していることが分かります。
購買力平価およびビッグマック指数の問題点
しかしながら、109.94円と69.03円では41.09円の差がありますから、本当にこの算出方法は合っているのか?と疑問に思いますよね。実はこの計算は不完全なものでして、それはエコノミスト誌も認めているところです。
以下に指摘されている問題点を列挙しました。
- 本来は関税や物流コストなどを加味する必要がある
- さらに各国の店舗維持コストや人件費を加味する必要がある
- 各国の補助金政策などの対象となっているか確認する必要がある
ようは国によって事情が異なるわけで、一物一価と言う概念は通用しないよね?と言うのが反対意見として最も多いです。
これに対して研究者たちは「相対的購買力平価」と呼ばれる上記問題点を加味した均衡点があるはずとして、研究を進めていくのですが、本日はこれ以上は踏み込みません。
またエコノミスト誌もこう言った指摘を当然の事実として認識していまして、そもそもビッグマック指数の意義については、購買力平価と言う概念を噛み砕いて説明するためのものであるとしています。
またより精緻に比較が出来るよう、一人当たりGDPを加味したモデルもリリースされています。一人当たりGDPを加味することで、上記問題点を和らげる効果があります。
せっかくですから一人当たりGDPを加味したドル円レートについても見ておきましょう。
日本のビッグマック価格:390円
米国のビッグマック価格:5.65ドル
製造コスト:日本は米国より17%安い(一人当たりGDPを加味)
米国の製造コスト調整:5.65ドル× 17% = 0.9605ドル
価格調整後の米国ビッグマック価格:5.65ドル – 0.9605ドル = 4.6895ドル
日米ビッグマック価格をもとに計算したドル円レート:1ドル=83.16円(390 ÷ 4.6895 = 83.16)
現在のドル円為替レートが109.94円で、ビッグマック指数をもとにしたレートが83.16円で、その差は26.78円となります。
最初に計算したレート差が41.09円、一人当たりGDPを加味したレート差が26.78円です。
一人当たりGDPを加味したレートの方が、体感的にもより現実的な数字のように感じることが出来ます。
購買力平価の使い方
この理論の特徴は、理論値と実際の為替レートの収束に時間が掛かることです。論文でも数年単位で収束していく傾向が見られるとの記載があります。
従って購買力平価の考え方を実際のトレードに活かす場合は、短期売買ではなく、中長期投資の参考にして頂くのが最も良いです。
本ブログでは例えば積立の企画も行っています。仮に10年間の積立を行うさいにはこの購買力平価を確認しておくと大いに役立つはずです。ビッグマック指数で低く評価されている通貨を買うことで中長期的なパフォーマンスが改善する可能性があります。無論、運用の成功には金利水準も大きく影響するため、総合的な判断が必要になる旨はご留意ください。
購買力平価について、約100年間にわたって議論が続いていますが、現在は概ね購買力平価と為替レートの関係があるとされています。やみくもに外貨投資をしてもパフォーマンスは上がりませんので、ぜひ一つずつ理論を覚えて、中長期投資の参考にして頂ければ幸いです。
本日はここまでとなります。
参考サイト
The Economist: The Big Mac index
日本銀行金融研究所:購買力平価(PPP)パズルの解明 時系列的アプローチの視点から
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